名車復活計画__その1__888SPS
1./ 2./ 3./ 4./ 5./ 6./ 7./ 8./ 9./ 10./ 11./ 12./ 13.
 さて次の日の朝、エンジンをかけようとした時の事、バイクの下の床にクーラントらしきものが垂れているのを発見しました。何かの拍子にそこにこぼれたものだったら問題ないのですが、本当にバイクから漏れたものだとしたら問題です。
もしバイクからだとすると、バイクの位置を動かさないでクーラントの落ちている真上を観察すれば漏れている場所の見当がつきます。
クーラント漏れはラジエーターからでした。サイドのチャンバー部分に内側からの腐食が認められ、それらしきところを針でつついたところ、見事に穴が開いてしまいました。
とりあえず溶接して穴の周辺まで補強しました。
 
 
 画像の右端の部分が修理したところです。修理後念のために内部に1.5kg/cm2くらいの内圧をかけてテストしてみたところ、修理した部分は直っていました。しかしなんと、別の場所のコア部分からエアが漏れるではないですか。コア部分からの漏れは致命傷です。しょうがないのでこのラジエーターの使用は諦める事にしました。

 替わりのものを倉庫で探すと、幸運にもいいものを発見しました。何を見つけたかというと昔レースで使っていた926レーシングの純正ラジエーターです。部品としてはSPSのものと全く同じものです。ちょっとした転倒による傷がありますが、この傷をつけたのはあの芳賀紀行選手ですからヒストリー的にも申し分ないでしょう。当時の全日本のレースではちょっと容量不足だったので使用しなくなり、ずっと倉庫にしまわれていたものが日の目を見ることになりました。

 さて、やっとエンジンをかけることが出来ました。
 ところがエンジンは何とかかかったのですが、今ひとつ調子が良くありません。かろうじてアイドリングするものの、少しすると止まってしまいます。空ぶかしのフィーリングもイマイチです。エンジンは完璧なはずなので、それ以外のところに問題がありそうです。

  COの値を見ると、4%に合わせたものが3.5%、3%、2%、1%、とカウントダウンした挙句、エンジンが停止します。燃料系が怪しいと目をつけました。そこでイグニッションをオンにしたときのフューエルポンプの音がいつもと違う事に気付き、とりあえずフューエルプレッシャーをモニターしながらエンジンをかけてみました。すると300kpaの燃圧が空ぶかしをしただけで250kpa位まで下がります。アイドリングをさせると、COの値と同様に燃圧が300kpaから徐々に下がってゆきエンジンが停止します。
明らかにフューエルポンプが不調です。
 取り外したフューエルポンプです。外見からは良否の判断はつきません。このタイプは基本的に現行車に使われているものと同じで、配線の接続さえやり直せば互換性があります。そこで今回は最新タイプのポンプを使用することにしました。

 そしてエンジンをかけると、問題は見事に解消されました。一から全てやり直したバイクですからあたりまえですが、絶好調です。

  クロメートをかけなおしたフロントブレーキディスクも取り付けて完成した888SPSです。結構長い道のりでしたが、結果として素晴らしい仕上がりだと思います。

 試乗もしてみましたが、最新のバイクに全くひけを取りません。乗っての面白さ、ワクワク度といったところに関しては、バイクの成り立ちを含めてかえってこちらの方が優れているかもしれません。親しいバイク屋の友人にも試乗してもらったところ、特にその乗っての面白さをやはり絶賛していました。

 今回のレストアで痛感したのですが、888のSPシリーズは最高のバイクです。それはバイクの成り立ち、乗っての面白さ、所有する喜びといった趣味性に関わる全ての部分を総合してそう言い切れると思います。

 しかしこれらは全て10年以上前のモデルなのです。それに加えてバイクの性格上、当時からそのまま現在まで乗られてきた個体は今やその素晴らしさの片鱗も無く、見る影もありません。根本的なメンテナンスをしないまま今に至るようなバイクはいくら外観を綺麗にしたとしても、はっきり言って調子悪いだけでとても乗る気になるような代物ではないでしょう。走行距離の少なかった今回レストアしたSPSでさえ、コイツはTFDに来るまでは「何とか止まらずに動いていただけ」だったと思います。

 でもいくらオンボロでも、888SPシリーズはいまだに素晴らしい「素材」だと思います。ちゃんとお金と時間をかければ本来の姿に蘇ります。もうそろそろクラシックやビンテージの仲間入りをするような時期にさしかかっていますが、本来の走行性能は現行バイクに迫るものがあり、スタイリングも今となっては非常に新鮮で美しく感じます。私のように当時から憧れていた人々だけでなく、趣味としてドゥカティを所有する方々の選択肢としてはかなり魅力的だと思いませんか?
 
 ツインリンクもてぎで開催されたJDDにて。あいにくの天候でデモ走行は行うことが出来ず、エンジンをかけて音を披露するのみに留まりましたが結構注目を浴びていました。


・・・・・・・・・・・・参考資料に続く。