名車復活計画__その2__888SPS__TFD弐号
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 さて、それではSP3のケースとSPS、SP5のケースは何処が決定的に違うのでしょうか?それを検証してみましょう。誰もが見て判る大きな違いは、クランクシャフトを支持している大きなベアリングが、SP3はボールベアリング、SPSとSP5はそれがローラーベアリングであるということで、これはちょっと詳しい人にとっては周知の事実だと思います。でもこれらの部品は、ベアリングをその周りのブッシュごと交換してしまえばお互いに互換性があります。SP3のケースにローラーベアリングを組み込む事は可能と考えれば、それはそんなに大きな問題になりません。

 その他にも決定的な違いがあります。最初の2つの画像がSP3のものです。決定的な違いはピストンクーラーのオイルジェットの位置です。SP3の場合、前後気筒用の2個のジェットが両方ともクランクケースの右側にあります。逆にクランクケースの左側にはオイルジェットが設けられていません。

 次の2個の画像がSP5のものです。SPSもこれに準じます。フロントシリンダー用のオイルジェットは右側のクランクケースに、リアシリンダー用のオイルジェットは左側のクランクケースに存在します。クランクケースを合わせるボルトのうちの1本が内部にオイルラインを持ち、そこを通ったオイルが右から左のクランクケースに入り、左のオイルジェットから噴出してリアのピストンを冷やします。ピストンの位置とオイルジェットの位置を考えれば、この方式の方が両気筒のピストン裏面にオイルを均等に当てやすく、ピストンを冷却するという本来の目的に対して理にかなっています。この形式は後にドゥカティ上級機種のスタンダードになります。
この違いが私にとっては決定的で、私には、左右独立したオイルジェットを持ったクランクケースでなければSPSではない、という拘りがあった訳です。
 その他にも幾つかの違いがあります。次の3つは順にSP3、SPS、SP5の同じ場所の画像ですが、シフトドラム用のカムの取り付けボスが、SP3では何も無く、SPSではそのベースとなる部分が出現し、SP5ではそこが機械加工まで施されて完全に出来上がっています。1年ごとの進化に非常に興味深いものがあります。ちなみにSP5でカム取り付けの準備が出来たとはいえ、この年式のバイクにはまだカムは装備されていません。実際にカムとそれに対応したシフトドラムが組み込まれるようになるのは94年モデルからで、それも非常に限られた車種に限りこの機構が採用されました。

 そういえばシリンダーベースに出てくるオイルラインにも違いが見られます。画像はSPSのケースで、それぞれフロントシリンダーのベース部分、リアシリンダーのベース部分です。オイルラインの穴が最初から有りません。右側にオイルジェットがまとまっているタイプのクランクケースには、フロント、リア共にオイルラインの穴が開いています。空冷エンジンの場合はこの穴からオイルがシリンダーを通ってヘッドまで上がります。水冷の場合はシリンダーにオイルラインの穴が無いので、シリンダーを組めば自動的にオイルラインは塞がれる事になります。リアシリンダー側はオーリングが入るようになっていますね。

 このオイル穴は水冷エンジンの場合オイル漏れの原因になります。水冷の場合この穴は絶対に使わないので穴無しにしておけば良いのに、と思うのですが、メーカーにはメーカーの事情があるのでしょう。
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