名車復活計画__その2__888SPS__TFD弐号
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 いよいよクランクケースの組み立てが始まります。その前にクランクシャフトやミッションシャフトの左右の位置をシムによって調整します。これは私にとってもいまだに手がかかるわずらわしい作業ですが、例えばクランクシャフトに関しては2本のコンロッドがシリンダーの中心に位置するようにする事がまずひとつ。それに加えてクランクケースを閉じた時のクランクシャフトの締り加減を調整する事が必要となります。クランクシャフトを支持するベアリングがアンギュラ玉軸受の場合は、例えば0.15mmのイニシャルを掛けます。つまりクランクシャフトの幅より、組んだケースの幅を0.15mm狭くするということです。

 こうして組むと、組みあがった状態でクランクシャフトを手で回すと当然ながら回転は渋い感じで、重く感じます。しかしこれが正しいのです。アンギュラ玉軸受は軽与圧式と呼ばれるベアリングで、この様にあらかじめ若干の荷重がかかった状態で使用して本来の性能を発揮するように出来ているからです。それに加えてエンジンに火が入りクランクケースの温度が上がるとケースは膨張し、寸法的にはイニシャルが減少する方に動きます。私の経験では、このイニシャルをゼロで組んだり、マイナスで組んだりすると高回転でエンジンに振動が発生します。著しい場合はクランクシャフトがサージングしてエンジンブローした例も見た事があります。

 尚、この0.15mmという値は年代と共に変化し、現在では0.30mmという値をメーカーは指定しています。しかし流石にここまでイニシャルを掛けると、私の常識ではかなり不安な状態に組みあがります。勿論新車はその様に組んである訳で、それで問題が出る事は無いと思います。しかし私の経験で考えると、この0.3mmというイニシャルで組んであるエンジンは十分な時間の慣らし運転をする事が前提で、尚且つエンジンを長持ちさせようというメーカーの思惑が大きいのではないでしょうか。実際にこのイニシャルで組んであるエンジンをいきなりサーキットに持ち込んで、国際レベルの実力を持ったライダーが容赦なくポテンシャルを発揮させようとしたところ、クランク支持のベアリングが破損したという実例を聞いた事があります。

 また今回の888SPSの場合は、使用しているベアリングがアンギュラ玉軸受ではなくローラーベアリングなので、上記の場合とクリアランスの取り方は違います。メーカーの指定値は、イニシャルを掛けるのではなくプラスのクリアランスで0.05〜0.10mmとなっていますので、それに準じて0.06mmとしました。
またミッションシャフト関係も同様に位置関係を調整します。こちらもイニシャルを掛けるような組み方はせず、それぞれ指定されたクリアランスを得られるように調整します。それと共に、実際に各ギアにシフトしてみて、ギアの噛み合わせ(ドッグの重なり具合)がどのギアも均等になるように位置決めを行います。
画像はそうした作業をクリアし、やっと仮組み状態になったところです。
 左右のケースを合わせてクランクケースが組みあがりました。シフトドラムのカム関係の部品も画像のように取り付けました。シフトドラムを含むこれらの関連部品は916系の物を使用しました。
 下の画像左はフライホイール関係の部品です。流石に市販車としてはかなり美しい仕上がりのフライホイールです。この画像の内、右上の部品2個はスターターのフリーホイールです。左が今迄使用していたもの、右が新品です。せっかくこの状態になっているのでフリーホイールは新品に交換します。ようやく組みあがったエンジンのこの部分が不調だったりしたら後悔しますからね。私がこうした自分の気に入ったバイクのレストアをするような場合、基本的に、このバイクは自分のモノである、というスタンスで作業しますので、徹底的にこだわります。

 次の画像はエンジン左側の各部品を取り付けた状態です。シフト関係のリターンスプリング類も新品に交換しています。
右の画像はエンジン右側の各部品を取り付けた状態です。1次減速のべアリング類やオイルシール類も新品です。
 画像は全て888SPシリーズの部品です。正確にはSP3、SP4、SPS、SP5、です。何のためにこんな状態になっているかというと、今回の作業で足りない部品を調達するためです。
 前述しましたが、今回レストアするSPSは当時レースで使われていました。そのため、例えばオリジナルのクランクケースが無く、SP5のクランクケースを使用してエンジンを組み立てている訳です。同様の事が他の幾つかの部品にも当てはまり、そうした部品にどのような対応をしていくべきか、これが問題です。

 勿論当時の工場出荷時に使用されていた部品があれば、その部品を使用する事が最優先ですが、今回のレストアでオリジナル部品が無い場合どのように対処するかについては、以下の優先順位で作業を進めています。

1:部品番号が同じで、年代も同じ部品を使用する。例えば品番が同じ92年式のSP4の部品であれば工場出荷時の部品と同一と判断して差し支えないでしょう。

2:部品番号が同じで、年代が異なる部品を使用する。今回のクランクケースを始めとする工場出荷時のものではない多くの部品はこれに当てはまります。

3:入手できる新品部品を使用する。

4:使用可能な部品を探して使用する。

以上のような方法で今後もレストアを進めてゆきます。
 尚、そうした部品が出現した時にはその旨の記述をします。

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